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別居9年の有責配偶者の離婚請求
夫は、婚姻前に交際のあった女性と再会し、男女の関係を有するに至り、夫は、福岡への転勤のために単身赴任して以来、妻との別居生活が継続している。
夫は、妻に対して、離婚を求める訴訟を提起したが、夫を有責配偶者と認定し、夫の請求を棄却する判決が下され、同判決は確定した。
夫は、再度離婚を求める本件訴訟を提起した。
@一審は、夫の離婚請求はなお信義則に反するとして棄却した。
A控訴審も、以下のように述べて、控訴を棄却し、一審判決を維持した。
夫は今だに女性と同居しておらず、1ヶ月に1回程度、それぞれの家を行き来するにとどめている。
また、依然、夫と女性との間に婚外子はない。
もっとも、女性の勤務先の破綻等を契機に同人の収入が減少したことを受け、同人及び同人が養育に当たっている大学生の娘の生活を援助する意味で、平成13年ごろから毎月10万円ずつ、平成15年8月以降は同15万円ずつ、女性に送金するようになった。
当事者間の長男は、その後高校を卒業し、一浪して、平成14年4月に大学に入学した。
現在も妻と肩書地で同居している。
現在の妻の給与収入は、月額7万円である。
これと夫から支払われる月額20万円の婚姻費用分担金により生計を維持している。
なお、夫は、上記婚姻費用とは別に、長男の大学授業料等を任意で支払っている。
夫は、いまや妻との同居生活を再開する意思を全くもっておらず、女性との婚姻を志向し、その前提として妻との離婚を強く望んでいる。
そして、夫は、離婚に伴う給付として合計800万円を支払うとの提案をするとともに、経済的に可能な範囲内での増額にも応じる意向である。
一方、妻は、夫との同居を再会することを通じて家族としての生活を取り戻したいとの理由から離婚を拒み続けている。
前記認定のとおり、当事者間の婚姻関係が既に破綻してしまっている状況下においては、妻が夫の帰ってくるのをなお待ち続けるというのはいささか非現実的であるとの感を否めず、当事者双方の再出発という観点からは疑問なしとしない。
しかも、前訴判決時には高校3年生で、大学受験を控えていた長男も今では成人して大学に在学中であること、その授業料等を夫が負担していることなどの事情に照らすと、もはや夫と妻との離婚が子の福祉に重大な影響を与えるとも言い難い。
しかし、既に認定・判断したとおり、両者の婚姻関係が決定的に破綻した直接の原因は夫の不貞にあるところ、当審口頭弁論終結時までの別居期間は、夫が妻に対して初めて離婚を切り出した平成6年11月から起算して約9年余りであるのに対し、同居期間が約21年間に及ぶことや双方の年齢等も考慮すると、別居期間が相当の長期間に及ぶとまで評価することは困難である。
さらに、夫と女性との間に子がいないことに加え、夫と女性との交際の実態等に照らすと、夫の離婚請求を認めた上で、女性との間の新たな婚姻関係を形成させなければならないような緊急の要請もないものといわなければならない。
他方、妻は、夫から支払われる婚姻費用によって、ようやく生活を維持できている状態にあるというほかなく、その職歴、年齢等に照らすと経済的に困窮する事態に追い込まれることは、容易に予測されるところである。
さらに、離婚に伴う給付として夫が提案する内容も、前記事実関係の下においては、なお十分であるとは言い難い。
してみると、夫による本件離婚請求は、信義誠実の原則に照らし、なお容認することはできないといわなければならない。
(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
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