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子の引渡し命じた外国判決の日本での執行
米国人の夫と日本人の妻は、テキサス州の法令に従い婚姻し、同州に居住し、長女が生まれた。
夫と妻は、テキサス州地方裁判所の離婚判決により離婚した。
本判決は、妻を長女の単独支配保護者すなわち保護親、夫を夏休み等の一定期間だけ長女をその保護下に置くことができる一時占有保護者と定め、かつ本件外国裁判所の許可なく州外へ子を移動させることを禁じた。
妻は、本件外国裁判所の制限付きの許可を得て、長女を連れて日本に転居した。
夫は、妻に対して本件外国裁判所に、長女の親子関係に関する訴えを提起し、長女の単独支配保護者を妻から夫に、一時占有保護者を夫から妻にそれぞれ変更すると共に、妻に対し、特定の期間を除いて、長女を夫に引き渡すこと及び養育費を支払うことなどを命ずる判決が言渡され、確定した。
夫は、本件外国判決に基づき、妻に対して長女の引渡しを命ずる部分の強制執行の許可を求めた。
@一審は、本件外国判決は、民事訴訟法200条及び民事執行法24条1項、3項所定の外国裁判所の判決に該当し、民事訴訟法200条の各号の要件を満たしているとして、夫の請求を認容した。
A控訴審は、以下のように述べて、原判決を取消し、夫の請求を棄却した。
民事訴訟法200条3号の要件が充足されているか否かを判断するにあたっては、当該外国判決の主文のみならず、それが導かれる基礎となった認定事実をも考慮することができるが、更に、少なくとも外国においてされた非訟事件の裁判について執行判決をするか否かを判断する場合には、右裁判の後に生じた事情をも考慮することができると解するのが相当である。
外国裁判が公序良俗に反するか否かの調査は、外国裁判の法的当否を審査するのではなく、これを承認、執行することがわが国の裁判所が外国裁判の承認、執行について判断する時と解すべきだからである。
右の事実によれば、本件外国判決は、長女が日本で生活するようになった場合には、長女の聴覚障害、日本における少数者に対する偏見、差別、激しい受験戦争等の事情から、アメリカ合衆国において生活するよりも適応が困難になるので、アメリカ合衆国で生活させる方がより長女の福祉に適うとの理由により、長女の単独支配保護者を妻から夫に変更し、それに伴って、妻に対し、夫への長女の引渡し及び扶養料の支払等を命じたものであり、他には右の変更を基礎付ける事由はないものと推認されるところ、長女が日本に居住してから既に4年余りを経過しており、同人は、最初のうちは、日本語が理解できず苦労をしたが、小学5年生の現在では、言語の障害もかなり少なくなり、明るく通学しており、かえって、現在では英語の会話や読み書きができない状態にあるのであるから、いま再び同人をしてアメリカ合衆国において生活させることは、同人の対し、言語の通じないアメリカ合衆国において、言葉の通じない支配保護者のもとで生活することを強いることになることが明らかである。
長女が幼児であるならばいざ知らず、本件口頭弁論終結時において、右のような保護状態に置くことは、同人の福祉に適うものでないばかりでなく、かえって、同人の福祉にとって有害であることが明らかであるというべきである。
したがって、長女の単独支配保護者を妻から夫に変更した本件外国判決を承認し、これを前提とした本件外国判決中の給付を命ずる部分を執行することは、長女の福祉に反する結果をもたらすもので公序良俗に反するというべきである。
以上のとおりであるから、本件外国判決は、全体として民事訴訟法200条3号の要件を欠くというべきである。
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