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別居期間8年の有責配偶者からの離婚請求の認容
夫は、独立して商売を始め、妻はその仕事を手伝っていたが、商売のやり方について意見が異なり、口論が絶えなかった。
そのため妻は手伝いをやめた。
夫は、「一人になって暫く考えたい。疲れた。」と言って別居し、当初2、3ヶ月は週に2日位妻方に帰っていたが、その後はこれも止めた。
夫は、別居前から他の女性と肉体関係があり、妻との別居後に女性と同棲するようになり、間もなく女性とは別れたものの、妻や子供には自分の住所も明かさなかった。
夫は、妻に対して、生活費を渡していたが、妻が夫の名義の不動産に対して処分禁止の仮処分の執行としたことに立腹して、これを中止した。
その後、婚姻費用分担の調停が成立し、月20万円の婚姻費用を送金している。
夫は、妻に対して本件離婚請求訴訟を提起した。
控訴審の和解において、夫は、離婚に伴う財産分与として、妻が居住している夫名義の土地建物の処分代金から経費を控除した残金を折半し、抵当権の被担保債務は夫の取得分の中から弁済するとの案を提示している。
@一審は、夫は有責配偶者であると認定したが、夫の離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するような特段の事情はないとして、夫の請求を認めた。
A控訴審は、約8年の別居期間は、23年余の同居期間、夫と妻の年齢と対比した場合に、いまだ夫の有責配偶者としての責任と妻の婚姻関係継続の希望とを考慮の外に置くに足りる相当の長期間ということはできないとして、夫の請求を棄却した。
B上告審は、以下のとおり述べて、原判決を破棄し、差し戻した。
有責配偶者からの民法770条1項5号所定の事由による離婚請求の許否を判断する場合には、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んだかをも斟酌すべきものであるが、その趣旨は、別居後の時の経過とともに、当事者双方についての諸事情が変容し、これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化することを免れないから、右離婚請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮すべきであることにある。
したがって、別居期間が相当の長期間に及んだかどうかを判断するに当たっては、別居期間と両当事者の年齢及び同居期間とを数量的に対比するのみでは足りず、右の点をも考慮に入れるべきものであると解するのが相当である。
夫と妻との別居期間は約8年ではあるが、夫は、別居後においても妻及び子らに対する生活費の負担をし、別居後間もなく不貞の相手方との関係を解消し、更に、離婚を請求するについては、妻に対して財産関係の清算についての具体的で相応の誠意があると認められる提案をしており、他方、妻は、夫との婚姻関係の継続を希望しているとしながら、別居から5年余を経たころに夫名義の不動産に処分禁止の仮処分を執行するにいたっており、また、成年に達した子らも離婚については婚姻当事者たる妻の意思に任せる意向であるというのである。
そうすると、本件においては、他に格別の事情の認められない限り、別居期間の経過に伴い、当事者双方についての諸事情が変容し、これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化したことが窺われるのであるとした。
(裁判上の離婚)
民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
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