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強制執行による子の引渡
母は、本件幼児の親権者変更申立事件を本案として、家庭裁判所に審判前の保全処分を申立て、本件幼児の引渡仮処分審判が下された。
その主文は、「父は母に対し、本件幼児を仮に引き渡せ」となっていた。
母は父に対し、本件債務名義に基づき、強制執行申立をしたが、札幌地方裁判所執行官は、強制執行申立却下をの執行処分をした。
そこで、母は、同執行処分の取消と本件債務名義に基づく強制執行の実施を求める本件訴訟を提起した。
裁判所は、以下のように述べて、母の申立を棄却した。
本件債務名義は、家事審判法15条の3及び家事審判規則52条の2による審判前の保全処分として発令された仮処分命令であるところ、その執行について、家事審判法は、「民事保全法その他の仮処分の執行に関する法令の規定に従う。」としているのみで、何ら特別の執行方法を規定しておらず、これを承けるべき民事保全法52条1項も、「仮処分の執行については、強制執行の例による。」とするに止まっている。
とすれば、執行官が本件強制執行を執行官法1条1項事務として遂行し得るか否かは、結局のところ、民事執行法に基づいて幼児の引渡請求をなし得るかという点にかかっていることになる。
民事執行法上、執行官が執行機関とされている引渡執行のなかで、本件において利用可能な方法としては、動産の引渡執行以外に想定できない。
本件において、申立代理人が本件債務名義に基づく引渡執行を執行官に対して申し立てたのも、かかる理解に基づくものであろう。
しかしながら、一般に引渡執行lは、執行官が債務者の目的物に対する占有を解いてこれを債務者に引き渡す方法によりなされるものであるから、それには債務者による目的物に対する排他的全面的支配関係が存在することが前提である。
そして、引渡執行が許される実質的根拠は、目的物に対する債務者の支配を解いてそれを債権者に引き渡すことにより、債務者と目的物との関係を債権者と目的物との関係に置換することが可能であることから、国家が強制的にこれを実施しても債務者の人格尊重の理念に抵触せず、かつ、最も効果的な方法であることに求められると考える。
そうだとすると、たとえ幼児であってもそこには人格の主体もしくは少なくともその萌芽を認めるのが相当であって、その引渡執行を許容するときは、親の子に対する占有ないし支配関係なるものを想定するのと同一の結果をもたらすことになり相当でなく、物と幼児とを同一視することはできないというべきである。
しかも、この種の強制執行申立の実質は、債務者と幼児との間の人格的接触と債権者と幼児との間のそれと異質性を前提にしたうえで、債務者と幼児との人格的接触を遮断するとともに、債権者と幼児との間の親子の人格的接触を暫定的にせよ確保しようとするところにあると解されるのであって、人格的接触が本来的に相互交流的性格を有することからすると、幼児の引渡によって、債務者と幼児との関係と同一の関係を債権者との間で実現することにはならず、これを強制的に行なうとすれば、もはや国家機関による強制的実現の許容性の範囲を逸脱するといわざるを得ない。
したがって、民事執行法上、幼児の引渡を許容する明文の規定は存在しないといわざるを得ない以上、子の引渡を直接的に求める執行は許されないというべきである。
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