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親権者の変更の判断基準
妻と夫は、婚姻し、長男が生まれた。
夫が妻に相談しないで計画した会社の設立に失敗し、多額の負債を抱えたことなどが原因となって夫婦関係が破綻し、長男の親権者を夫と定めて協議離婚した。
妻は、離婚に際し、自分が親権者になって事件本人と養育することを希望したが、まだ離婚後の生活指針や事件本人の養育体制についての見通しが立っておらず、妻の母、弟も事件本人を引き取ることに反対した。
また、夫の父の提案で、「妻が就職して生活が安定したことを妻の母と弟が認め、事件本人を引き取ることを願い出たときは、事件本人を引き渡す。なお、妻が事件本人に会いたいときは、いつでも会って差し支えない」との誓約書を交付されたこと等から、夫を親権者とすることに同意し、事件本人は夫の実家に預けられ、夫の両親の下で養育されることになった。
しかし、妻は、子を思う気持ちを断ち切れず、親権者変更の調停申立をし、調停は不成立となり、本審判に移行した。
@原審は、妻の申立を認め、長男の親権者を妻に変更した。
A抗告審は、以下のように述べて、原審判を取消し、妻の親権変更の申立を却下した。
妻は、夫を事件本人の親権者と定めることに一旦は同意して協議離婚をしたものの、子を思う気持ちを断ち切れず、事件本人の親権者になって同人を監護養育することを強く望んでおり、妻の健康状態、性格、愛情、監護養育に対する意欲、経済力など親権者としての適格性において、夫との間にそれほど優劣の差はなく、事件本人の養育態勢についても真剣に配慮していることが認められる。
しかし、他方、夫の事件本人に対する監護養育の現状を見るに、夫が昭和60年12月に実家に戻ってからは、事件本人は、祖父母の家において、父、祖父母及び叔母という家族構成の中で、それぞれの人から愛情をもって大事に育てられ、心身ともに健全に成長して、安定した毎日を過ごしており、その生活環境にも何ら問題はなく、経済面においても祖父母の協力によって不安のない状態に置かれていることが明らかである。
そうすると、親権者を変更するかどうかは、専ら親権に服する子の利益及び福祉の増進を主眼として判断すべきところ、まだ3歳になったばかりで、その人格形成上重要な発育の段階にある事件本人の養育態勢をみだりの変更するときは、同人を情緒不安定に陥らせるなど、その人格形成上好ましくない悪影響を残す恐れが大きいものと予想されるから、妻において夫から誓約書を交付された事情を考慮しても、将来再度検討の余地は残されているものの、なお現段階においては、事件本人のために親権者を夫から妻に変更することは相当でないといわざるを得ない。
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