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裁判上の和解の面接交渉権の変更
妻と夫は、婚姻し、長女、長男が生まれた。
夫は、覚せい剤取締法違反で、懲役4月、執行猶予2年の判決を受けた。
夫は、経営していた麻雀荘が不振となり、廃業してからは、無職となった。
夫は、日常的に妻に対して暴力を振るった。
妻は離婚訴訟を提起し、子らの親権者をいずれも妻と定め、「妻は、長女、長男がそれぞれ成年に達するまでの間、夫が2ヶ月に1回の割合で右子供らに面接することに同意する」旨を定めて、裁判上の和解を成立させ、離婚した。
夫は、覚せい剤使用で、懲役1年2ヶ月の実刑判決を受けたが、出所後に、妻の自宅におしかける、暴行を加える等の行為を行なった。
妻は、面接交渉の禁止を求める本件審判の申立をした。
@裁判所は、次のように述べて、以下の審判を下した。
主文「夫妻間の浦和地方裁判所事件について右当事者間に成立した和解中、子らと夫との面接交渉につき、妻との間でこれを許す新たな協議が成立するか、又は、これを許す家庭裁判所の調停審判があるまでの間、子らと面接交渉をしてはならいない。
面接交渉権は、抽象的には親として有する固有の自然権であるが、具体的には父母間の協議又は家庭裁判所の調停・審判によって形成される、子の監護に関連する権利と解されるから、本件のように面接交渉権が裁判上の和解により形成された場合でも、その実質は父母間の協議と解するのが相当である。
そして、前記のとおり、面接交渉に関する協議が成立した以上、当事者は約旨にしたがって面接する権利、義務を有するに至ることは多言を要せずして明らかである。
しかしながら、面接交渉権は、親の子に対する自然の情愛を尊重し、子の人格の健全な成長のためには親の愛情を受けることが有益であることを根拠として認められるものであるから、面接交渉権の行使が、協議又は調停・審判の成立後の事情の変更により、未成年者の福祉を著しく害するような事態に至ったときには、未成年者の監護に関し後見的な権限を有する家庭裁判所は、右協議又は調停・審判の変更又は取消しをすることができるものと解するのが相当である。
右和解に基づく2ヶ月に1回の割合による面接に関する協議は、その合意の成立の当初から子らの福祉のためになされたというよりは夫がこれに籍口して離婚後の妻との面会の機会を得るために約定したとの疑念を払拭し得ないばかりでなく、夫には子らとの面接により子らの人格の健全な成長を図るという意図が全く看取し得ないのである。
しかも、夫は覚せい剤の乱用により受刑した上、出所後も離婚した妻及びその父に対し暴行を加え、あるいは金銭の要求をし、または子らの通園する幼稚園に迷惑をかけるなどして、子らの福祉を著しく害するような所為に及んでいるのである。
そして、現在、夫が従前の生活態度を改めて、子らとの円満かつ平穏に面接をなしうるとの資料は見いだせない。
このように、本件については、面接交渉権が、その後の事情の変更によって、これを行使させることが子らの福祉を著しく害し、もしくは害する蓋然性が高いと認められるので、右和解に基づく面接交渉の協議は、新たな協議又は調停・審判によって変更又は取消しをすることが必要であるというべきである。
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