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離婚成立前の子の引渡しの仮処分
妻と夫は、婚姻し、主に農業を営む夫の両親と同居生活を始めたが、夫の母親との間に確執が生じた。
妻は、長女を出産したが、夫の母親とのことで夫と口論になったことがきっかけで、別居することを決意し、長女を連れて実家に戻った。
夫は、2回夫婦関係調整調停申立をしたが、いずれも不成立になった。
夫は、父親とともに妻に面接した際、長女を抱いて自動車に乗り込み、長女を連れ去った。
妻は、長女の引渡しを求める本件仮処分を申立をなし、その発令を得た。
夫は、本件仮処分命令に応じないばかりか、妻と長女との面接さえ許さず、夫方の出入り口には、妻の父一族の侵入厳禁と記載した大きな看板を立て、妻との接触を完全に拒否している。
妻は、離婚訴訟を提起し、夫は、離婚を求める反訴を提起してる。
妻は、本件仮処分命令に保全異議申立てをなし、原審は本件仮処分を認可した。
夫は、これを不服として保全抗告を申し立てた。
裁判所は、以下のように述べて、夫の抗告を棄却した。
本件仮処分の申立は、人訴法16条に基づくものであって、離婚の訴えが認容された場合になされるべき親権者の指定に伴う人訴法15条5項2項所定の子の引渡しを本案とするものであるから、これが発令されるためには、被保全権利として、離婚が認容され債権者が親権者と指定される蓋然性が存することが必要であり、保全の必要性としては、人訴法16条により民事保全法23条2項が準用され、債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とする事情の存することが必要とされるのであり、また、これで足るというべきである。
夫は、本件仮処分の申立は人身保護法に基づく幼児引渡し請求と同一事案であって、最高裁平成5年10月19日第三小法廷判決は、右事案において幼児引渡しが認容されるためには、請求者に監護されることが子の幸福に反することが明白であることを要すると判示しているから、本件仮処分申立においても右と同様の観点から判断すべきである旨を主張する。
しかしながら、人身保護法に基づく幼児引渡し請求につき右のように解する根拠が、人身保護制度の趣旨、拘束の違法性が顕著であることが要件とされていることなどにあることは、その判示と補足意見から明らかであって、人訴法16条に基づく本件仮処分申立につき右のように解する根拠はなく、夫の主張は独自の見解というべきであって採用することはできない。
夫と妻はいずれも経済状態や居住環境に問題はないものの、夫は、別居に際して妻と長女を妻の実家に送り届け、調停に際しては一旦は親権を妻に認めながら養育費が問題となって翻意し、さらには、長女を強引に奪取した上、母親である妻と長女との面接を拒絶しているものであって、夫が長女の監護養育に固執しているのは必ずしも長女への愛情だけによるものとはいえない面が認められ、しかも、実際の監護養育においては夫が老齢の両親に任せているのに対し、妻は自ら愛情をもってこれに携わる希望を有しているのであり、一般的に祖父母よりも母親が監護養育するほうが子の心身の健全な育成と人格の形成にとって好ましいことは明らかである。
以上の諸事情を比較考量すると、長女の親権者として妻が指定される蓋然性は高いというべきである。
そして、長女の親権者が妻に指定されることを前提に、夫が長女を奪取して1年以上を経過しており、その間、妻と長女との面接を拒絶していることを考えると、妻には、監護養育に不可欠な長女との愛情の交流が回復困難となる切迫した危険が生じているというべきであるから、保全の必要性も認めることができる。
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