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子の引渡しの審判前の保全処分
妻と夫は、婚姻し、長男、二男、三男が生まれた。
夫は、ガソリンスタンドを経営しており、妻は専業主婦である。
夫が女性従業員と旅行に出かけたことが発覚したことから、妻は離婚を決意し、当時医師から治療に専念する必要があると言われたことからやむなく、単身で実家に帰り、夫と別居した。
妻は、夫に対して婚姻費用分担調停と離婚調停申立をした。
しかし、夫は、協議離婚届に子らの親権者を夫と記載して、協議離婚の届出をした。
子らと妻との面接交渉が行なわれたが、その後は面接交渉は実現しなかった。
妻は、夫に対して離婚無効確認、夫の不貞行為等を理由とする離婚、子らの親権者を妻と定めること等を求める訴訟を提起した。
妻は、子らの引渡しを求める審判の申立をした。
そして、妻は、本案事件の審判前の保全処分として、子らの引渡しを求めた。
@原審は、以下のように述べて、妻の申立を認めた。
現在夫の下で生活している子らは、母別居後の生活面に特には問題はなく、表面上は一応安定しているかに思える生活をしているが、父母である妻と夫が子らの前で不和となり、父が母に暴力を振るったりし、父が他の女性と付き合い、その女性を家に連れてくるなどの行為をさまざま見聞きしてきたものであり、これらの夫の言動が感受性豊かな年代の子らに与える影響は無視し得ないものがあり、これからの子らの成長過程にあって、心理的な環境の改善は極めて重要といえる。
子らの養育についての客観的、経済的環境の整備については、妻側、夫側ともさしたる差異がない状況であるから、こうした精神的、心理的環境の側面において、夫のもとでよりも妻のもとで監護養育したほうが一層子らの福祉に資し、妥当であるといえる。
さらに、妻と夫との身分関係の訴訟の進行状況、本件本案についての終局的行方等にはなお日時を要するとすると、その間日々の生活をしている子らの状況を現状のまま放置しておくことはその福祉に著しく反するから1日も早く、子らを夫のもとから妻のもとに引き渡すことが緊急の要請であるといえる。
A抗告審は、以下のように述べて、原審判を取消し、本件申立を却下した。
審判前の保全処分を認容するには、民事保全処分と同様に、本案の審判申立が認容される蓋然性と保全の必要性が要件となるところ、家事審判規則52条の2は、子の監護に関する審判前の保全処分に係る保全の必要性について、「強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するための必要があるとき」を定めている。
そして、子の引渡しを求める審判前の保全処分の場合は、子の福祉が害されているため、早急にその状態を解消する必要があるときや、本案の審判を待っていては、仮に本案で子の引渡しを命じる審判がされてもその目的を達することができないような場合がこれに当たり、具体的には、子に対する虐待、放任等が現になされている場合、子が相手方の監護が原因で発達遅滞や情緒不安を起している場合などが該当するものと解される。
子らは、現在、夫の下で一応安定した生活を送っていることが認められ、上記保全の必要性を肯定すべき切迫した事情を認めるに足りる疎明はないから、その余りの点について判断するまでもなく、本件審判前の保全処分の申立は理由がない。
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