取締役の違法行為の差止請求権

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取締役の違法行為の差止請求権

東京高判平成11年3月25日(違法行為差止請求控訴事件)
判時1686号33頁

<事実の概要>

A社は電気事業を主要な事業とする株式会社である。

昭和64年1月、A社が設置する原子力発電所の原子力発電機(以下「本件原子力発電機」)はその再循環ポンプに破損を生じ、運転停止に至る事故を起した。(以下「本件事故」)。

その後A社は修理等の措置を施し、監督官庁等による調査・検査・許可等の法定の手続を経た上で、平成2年12月に本件原子力発電機の運転を再開した。

A社の株主であるXが、A社の代表取締役であるYに対し、Yが従業員に対して本件原子力発電機の運転の継続を命じるのは法令違反であり、これによってA社に回復すべからざる損害を生じるおそれがあると主張して、前商法272条による違法行為の差止を求めて提訴。

原審敗訴を受け、Xが控訴。

Xが主張する法令違反の内容は以下の2つである。

@本件原子力発電機は電気事業法39条1項に基づく通産省令(当時)の定める技術基準に適合しないため、本件原子力発電機の運転の継続を命じることは電気事業法39条1項に違反する。

AYには本件原子力発電機の安全上の欠陥について対策を講ずる義務又はその調査をする義務があり、それらを怠って本件原子力発電機の運転の継続を命じることは代表取締役の善管注意義務又は忠実義務に違反する。



<判決理由>控訴棄却。

@について「電気事業の経営を執行するYは、法令遵守の一環として(電気事業法に基づき通産省令が定める)技術基準をも遵守する義務があり、その業務の執行に当り、本件原子炉施設が技術基準に適合するか否かについても留意し、技術基準に適合するようにこれを維持すべき義務を、代表取締役の善管注意義務ないし忠実義務の一態様としてA社に対して負う・・・。

他方、原子炉施設の安全性・健全性に関する評価・判断は、極めて高度の専門的・技術的事項にわたる点が多いから、原子炉施設を設置・運転する会社の代表取締役としては、特段の事情がない限り、会社内外の専門家ないし専門機関の評価・判断に依拠することができ、また、そうすることが相当というべきである。

すなわち、本件のように、発電の用に供する原子炉施設について(担当大臣)による設置、運転等に関する規制が行われており、法令等による所要の諸検査が実施され、全検査の終了、合格が確認された上で原子炉が運転される場合においては、検査の過程及ぶ合格の判断に過誤があることが明らかであるなど特段の事情がない限り、A社の代表取締役であるYが、右諸検査の終了、合格という結果を信頼して、本件原子炉施設に技術基準に適合しない状態はないと判断して原子炉の運転の継続を命ずることは、代表取締役としての会社に対する善管注意義務ないし忠実義務・・・に違反するものではないというべきである。」

(本件原子力発電機の技術基準違反の有無を検討した上で、)「以上によれば、本件原子力発電機・・・に技術基準違反があるとは認めることができない上、本件事故後、本件原子力発電機の運転を再開するについて、(監督官庁)による健全性の検査の過程及び合格の判断に過誤があることが明らかであるなどの特段の事情も認められないから、技術基準不適合による電気事業法違反を前提とするY・・・の善管注意義務ないし忠実義務違反があるということはできない。」

Aについて「本件のように事故が発生し一旦停止した原子炉の運転を再開しその継続を命じようとするに当っては、本件事故による本件原子炉施設の損傷状況、事故後に機器等に施された修理等に関する諸事実を基礎として、修理後の本件原子炉施設の健全性及び事故発生防止対策の有効性について慎重な検討を行い、これに基づいて業務執行をすることが、代表取締役として尽くすべき注意義務ないし忠実義務の具体的内容をなすというべきである。

もっとも、右のような原子炉施設の健全性についての判断は、特殊な専門領域における科学的、専門的、技術的な知識、経験を必要とするものであり、Y自身が必ずしも必要とされる専門的、技術的知識、経験の全般にわたって、これを具有することを期待し得ないから、Yとしても右善管注意義務ないし忠実義務を尽くしたというためには、社内の専門的知見を有する者らの報告、情報、意見や社外の信頼すべき公的専門機関やそこに所属する専門家の判断、見解、さらには監督官庁の指導などを踏まえつつ、それらの意見等を尊重し、これに依拠して業務を執行することが必要であり、かつ、それらの意見等を信頼して業務の執行あたる場合には、特段の事情のない限り、代表取締役としての会社に対する前記義務は尽くされていると解するのが相当である。」

「本件原子力発電機を継続運転した場合、Xの指摘するような事故を発生させる抽象的危険を内包しているとしても、・・・A社の最高経営責任者であるYは、・・・(様々な)利害得失についても総合考慮した上で経営的判断をせざるを得ない立場にあるところ、監督官庁である・・・原子炉等の安全確保のための規制に関する事項を所轄事務とする・・・公的機関が、専門家の調査・検討に基づいて下した本件原子力発電機の健全性についての評価・判断に、右検査の過程及び合格の判断に過誤があることが明らかであるなどの特段の事情が・・・は認められず、今後十分な監視を行うべきであるとの・・・(監督官庁等)の指摘ないし指示を順守する限り、右諸検査の終了、合格という結果を信頼し、それに依拠して、本件原子炉施設に安全上の欠陥状態はないものと判断して本件原子力発電機の運転の継続を命ずることができ、また、A社の組織内部の原子力発電等の専門家の判断についても、その判断の前提データに捏造や過誤があることや判断そのものに過誤があることが明らかに認められるなどの特段の事情もみとめられないので、これを信頼して原子力発電の運転業務の遂行を命ずることも許され、その限りでは、Yの代表取締役としての会社に対する善管注意義務ないし忠実義務・・・に違反するところはないものといわざるをえない・・・。」

(Xは、Yには第三者から安全上の欠陥について具体的根拠を挙げて指摘があったときはこれを調査する義務があり、調査によって安全性が確認されない限り、原子力発電機の運転を停止する義務があると主張するが、)「代表取締役は、判断過誤を疑うべき具体的根拠がない限り、公的な専門機関の判断を再調査すべき義務はなく、また、不正を疑うべき出来事が発生するまでは、A社内部の専門的、技術的管理部門ないしその従業員の誠実さを信頼してよいのであって、それらのデータの捏造、虚偽報告、判断の過誤等を疑って、自ら若しくは会社の探索機関を組織して独自に調査する義務まで、最高経営責任者の善管注意義務の一態様として負うものとはいえない。」

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手形行為の表見代理における第三者
手形偽造と民法110条の類推適用
手形の偽造と手形法8条の類推適用
銀行による偽造手形の支払
手形の偽造と民法715条の使用者責任
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裏書の連続
裏書の連続のある手形による請求と権利推定の主張
被裏書人の氏名だけの末梢
手形保証と権利濫用の抗弁
支払呈示期間経過後の支払呈示の場所
手形法40条3項にいう重大な過失
支払延期のためになされた手形書替え
支払猶予の特約と消滅時効の起算点
手形を所持しない者の裁判上の請求と時効中断
手形金請求訴訟の提起と原因債権の消滅時効の中断
手形の除権判決と除権判決前の善意取得者の権利
利得償還請求権の発生と原因債権との関係
手形債権と原因関係上の債権との行使の順位
賭博による債務支払のための小切手の交付
手形割引の法的性質
割引手形と買戻請求権
支払人として記載された者以外の者のなした為替手形の引受け
外国向為替手形の取立て・再買取の拒絶と買取銀行の権利義務
盗難預金小切手の支払
被仕向銀行の行為による損害と仕向銀行の振込依頼人に対する責任
誤振込みによる受取人の預金の成否
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